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大阪地方裁判所堺支部 昭和38年(ワ)147号 判決 1964年6月03日

原告

サカエ薬品株式会社

右代表者代表取締役

中内博

右訴訟代理人弁護士

元原利文

被告

夏江信

主文

一、被告は、その営業を表示するため、店舗、新聞折込広告に「サカエ」または「サカエヤ」、「サカエサカエサカエ」、その他これと類似の名称を使用してはならない。

二被告は、堺市一条通八丁一〇一番地所在の店舗に掲示している「サカエ」、「サカエサカエサカエ」、及び「サカエヤ」なる文字入りの看板を取り外せ。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は、主文と同旨の判決を求め、その請求原因として、

一、原告は昭和二六年八月設立された株式会社で、いわゆるスーパーマーケツト方式により医薬品、日用雑貨、衣料品、食料品を販売している。

二、原告は、いわゆるスーパーマーケツトの草分けであり、その販売高も同種業者の最高クラスに達し、毎月少なくとも一回の新聞折込により、大阪市内南部一四区及び堺市一円で広告をなし、同地区内では「サカエ」として広く認識せられた商号を有し、その看板にも「サカエ」及び「サカエサカエサカエ」と表示している。

三、ところが被告は、昭和三八年五月一日不正競争の目的をもつて、堺市一条通八丁一〇一番地所在の店舗に、突如、「サカエ」、「サカエサカエサカエ」と表示した看板をかかげ、かつ新聞折込広告にも「サカエサカエサカエ」堺店と表示し、あたかも原告の支店が堺市で開店したように、原告の営業施設及びその活動と混同を生ぜしめている。

四、さらに被告は、同年六月二〇日頃から右店舗に「サカエヤ」と表示した看板をかかげ、引き続き原告の商号と類似の表示をしてその営業を継続している。

五、被告のなした右一連の行為は、不正競争防止法第一条第二号に該当するものであるから、被告に対し、その店舗、新聞折込広告に「サカエ」、「サカエヤ」、「サカエサカエサカエ」、その他これと類似の名称を使用することの禁止及び前記店舗に掲示されている「サカエ」、「サカエサカエサカエ」、「サカエヤ」なる文字入りの看板の撤去を求める。」と述べた。

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、

「原告主張の一、の事実は認める。同二、事実は知らない。同三、同四の事実中、被告がその店舗に原告主張どおりの看板をかかげ、新聞折込広告にもその主張どおりの表示をしたことは、いずれも認めるが、その余は否認する。被告は不正競争の目的をもつていなかつたものであり、このことは、被告が原告の求めにより、その店舗の表示を「サカエ」から「サカエヤ」に改めたことからも明らかである。また、被告は、原告と同一の市町村内においてその商号を登記したのでもなければ、本店を設置したものでもない。原告の本店は大阪市東区であり、被告の店舗は堺市にある。そして原告はその支店を堺市においているのでもない。原告の主張は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の精神に反するものと考えられる」と述べた。

立証《省略》

理由

原告が昭和二六年八月設立された株式会社であり、いわゆるスーパーマーケツト方式により医薬品、日用雑貨、衣料品、食料品を販売するものであることは、当事者間に争いがなく、<証拠―省略>を綜合すれば、原告は大阪市内におけるいわゆるスーパーマーケツトの草分けで、その営業には「サカエ」の商号を表示し、その営業店舗としては、大阪市南区に難波店を有するほか、大阪市内に平野町店、駒川町店の、合計三店舗を有し、その販売実績は、三店舗を合し大阪市内で屈指の売上高を有すること、そして原告は、右各店舗に、「サカエ」及び「サカエサカエサカエ」なるゴジツク体の文字入の縦書及び横書の看板をかかげ、また難波店においては、その宣伝広告として毎月一回、大阪市内南部(西成区、阿倍野区、天王寺区、住吉区、南区、浪速区、東成区、城東区、西区、港区、生野区、大正区、此花区)及び堺市内一円で、「サカエ」の商号を表示した約一九〇、〇〇〇枚の新聞折込広告(なお、昭和三八年五月一八日堺市内に配布された難波店の新聞折込広告は二五、四〇〇枚である」をしていること、かような事実が認められ、右事実によれば、原告は、右地区内では「サカエ」として広く認識せられた商号を有するスーパーマーケツトであるということができる。

ところで、被告が昭和三八年五月一日堺市一条通八丁一〇一番所在の店舗に、「サカエ」、「サカエサカエサカエ」と表示した看板をかかげ、新聞折込広告にも「サカエサカエサカエ」堺店と表示し、また同年六月二〇日頃からは、右店舗に「サカエヤ」と表示した看板をかかげて、その営業をしていることは当事者間に争いがなく、<証拠―省略>によれば、被告は右店舗でスーパーマーケツト方式により食料品、衣料品、菓子類等を販売していることが認められる。

そこで被告の右行為が商法第二一条第一項、不正競争防止法第一条第二号に該当するかどうか判断する。<証拠―省略>並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。すなわち、

(1) 被告が右店舗にかかげている「サカエ」及び「サカエサカエサカエ」の看板は、原告の店舗にかかげられているそれと比較すると、看板全体の大きさが異る以外には、その字体がゴジツク体であり、その色彩が黄色地に赤文字で表示され、かつ、縦書及び横書のものを使用する点で全く同一であり、縦と横の大きさの割合もほとんど同一である。

(2) 被告が堺市内でなした新聞折込広告に表示した「サカエサカエサカエ」の文字は、原告が大阪市南部及び堺市内でなしている新聞折込広告に表示した「サカエ」の文字と、その字体はほとんど同一であり、後者に「難波店」と表示されているのに対し、前者には「堺店」と付加されている。

(3) 被告の妹である夏江梅子は、昭和三六年六月から昭和三七年二月まで原告方に店員として雇われており、原告の営業方式、広告方法を知つていた関係から、被告もこれらを知つていたものと推認される。

(4) 被告が「サカエ」の商号を使用して営業していることを原告が知つたのは、昭和三八年五月頃原告方へかねて商品を納入していた業者から原告に対し、堺店にも商品を納入させて欲しい旨の申出がなされ、これに基いて原告が現地を調査したことによるものであつて、当時すでに被告の店舗を原告の支店と誤認して商品を納入していた業者もあつた。

(5) なお原告は、昭和三八年六月被告に対し「サカエ」の商号の使用を禁止するよう申し入れたところ、これに対し被告は、前記のとおり、「サカエヤ」とその表示を改めたのみでその営業を続けるので、さらに原告は同年七月被告に対し、「サカエヤ」の商号も類似商号にあたるとしてその使用の禁止を求めたが、被告はこれに応じない。

以上の事実が認められる。

右事実によれば、被告は、不正競争の目的をもつて大阪市南部及び堺市内一円において広く認識された原告の商号である「サカエ」と同一または類似の商号を使用し、あたかも原告が堺市内に店舗を設けて営業を始めたもののごとく誤認せしめ、もつて原告の営業上の施設または活動と混同を生ぜしめたものというべきであり、被告の行為は商法第二一条第一項、不正競争防止法第一条第二号にあたるものといわなければならない。

被告は、原告の本訴請求は私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の精神に反すると主張するが、そのように認めるべき事情は何ら存しない。

そうすると、原告は被告に対し、被告がその店舗、新聞折込広告に「サカエ」、「サカエヤ」、「サカエサカエサカエ」、その他これに類似の名称を使用することの禁止、並びに被告がその店舗にかかげている「サカエ」、「サカエサカエサカエ」及び「サカエヤ」の文字入りの看板の撤去を求め得べきものであり、これを求める原告の本訴請求は正当して認容すできものである。

そこで民事訴訟法第八九条を適用の上、主文のとおり判決する。(裁判官松田延雄)

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